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【2】講演「玉手匣を開いて ー 大江山酒呑童子から天橋立へ」《その1》 |
会場をぴったり「コ」の字に囲んだ原寸大原稿のコピー、101枚。
南の壁には男性性主体の、晴明の五元の神を呼び込む舞や頼光や山伏たちの活躍シーンが。北側の壁には女性性主体の『イナンナ』からのセレクトや、真葛や匏、暗闇丸のシーンが。東の壁には、それらが縦横に統合されていく『陰陽師 玉手匣』の終盤シーンが。
会場では、玉手匣の原稿を陰陽の性質に分けて展示いたしましたが、大きくは、前シリーズの漫画『陰陽師』(以下『陰陽師』)では、主役安倍晴明が大地母神(神性女性性)の復権のために、特に後半は自分の中の男性性を全開して、速攻で、剛毅、頭脳的で、行動的で、さらに女性を想う男であったり、父であったりと、あらゆる男性の立場から、体を張って働いた物語になっています。
一方、『陰陽師 玉手匣』(以下『玉手匣』)では、晴明は初めから自分の中の女性性を発動させていました。
男性でありながら、自分の中の女性性を解放して、懐を広げ、繊細で、柔らかい。そのスタンスから再度、大地母神(神性女性性)の復権のために働こうとしました。なので、全編に渡って敢えて坤徳。受け身でした。
ああ、それはまさに 陰 陽 師、と思われるかもしれません。
でも、それは理論ではなくて、計画したわけでもなくて。
その二つにもちろん、優劣というものはなく、ただ、『陰陽師』執筆中感じていたものは、常に晴明には強く太い確信のようなものが一本通っていて、選択肢は一つで、間違いがない。
《この感覚は皆さん、なんとなく慣れていらっしゃることと思います》
一方『玉手匣』の時の晴明は、真逆に、常に、何もかも受け入れる大皿のようで、選択肢は多様にあるけれど、どれを選んでも間違いではない。(選びようがないので、晴明らしく、とにかく一番難題を選んで行った)
《この感覚は、なんだかはっきりしなくて、人によっては居心地悪く、慣れてないと感じられるけれど、近頃なんとなく耳にするかな、と思われるかもしれません》
この、「選択肢は多様にあるけれど、どれを選んでも間違いではない。」というのが、長い間恐れられて、その一般性を閉ざされてきた女性性の特色でした。
それは、大海の中にたった一人、小船で送り出されたようで、何も頼るものはなく、どちらの方向に漕ぎ進めることも可能で、行程は何れにしてもどこかにたどり着くのは間違いがない。最終的に行く方向を決めて目的地にたどり着かせるものは、「直感」と頼りどころが無いものへの「信頼」と、「経験」です。
これは…大変な大冒険です。
保証や、確実性を求める現代人には、恐ろしく思われる、大冒険。
いえ、保証することや、確実性を求めることで失われてしまった、冒険心。
また、多様性を認めてしまうと、統率に難しくなるので認めるのを恐れた(排除したく思った)立場の人たちもいたことでしょう。
そして『玉手匣』執筆中の物語の進行の選択肢は、常に、「多様にあるけれど、どれを選んでも間違いではない。」だったので、描いている側も、先に何が来るのか見当もつきませんでした。けれど、思い切って、身を任せてみました。
目の前に見えてきたものを、否定せずに、素直に描いてみようと。
特に、一番、高く見えるシーンや、微笑ましい気持ちになれる、楽しいシーンを選んで。
そうして、描かれた『玉手匣』。連載の第1回目から、まるで初めからそうなると決まっていたかのように、編み上げられて、完結されました。
そしてまた、完結の第七巻にたどり着いた時、この多様性と、大冒険を、海人族は得意とした、敬愛していた、ということに気づかされました。
ゆえに、豊穣の女神を信仰し、巫女王を立てていた、と。
その頃は、物質的に確実な保障などない選択こそ、神聖視されていた、と。
そして、そのことは、歴史の表から消し去られたのだな、と。
この二つのシリーズを完結させる、一連の体験が、二つを描き終えた今、神性男性性と、神性女性性を、対等に、統合に運ぶ、その誘導だったと、感じています
どちらか一方が優勢なのではなくて、両方が全開で、バランスが取れている、自分の中の純粋な宝石のような真実を、信頼して、皆が自在に自分だけの冒険に身を任せられる。そういう時代へ…。
「シェア♥玉手匣 トーク」の講演と、晴明公への正式参拝の背景に、それがありました。
ですから、多くの皆さんのお力をお借りして晴明公に参拝したく思いました。
そして、各地から様々な方たちがお集まりくださいました。
『陰陽師』時代からのファンの方、『玉手匣』からのファンの方、その二つの間を結ぶ、女性性の三相を描いたグラディエーションの帯のような『イナンナ』を読まれていらした方。全くどの作品もまだ読まれたことのなかった方。女性も。男性も。若い方も。経験豊富な方も。と。
続きます。