2015年9月19日、津波で御社殿が倒壊し長らく仮宮住まいでおられた葉山神社の神様が、再建された新しい御社殿へ移られる御遷座祭に駆けつけようと、夕暮れの雲が、何か心が和むようなピンク色に染まる中、仙台南部道路を雄勝に向かって走っていました。
ふと目を地にやると、津波の被害の大きかった仙台市の若林区の塩害にあった田んぼたちが、全て黄金色に稲穂をつけていて、それは心が動きました。長かったけれど、被災された地に、とうとうこの秋が来たのだなという思い、蘇るものと蘇らぬものを思う思いに、ただ細く涙が流れ続けました。
葉山神社に着いたのはすっかり日も暮れた御遷座直前。車を降りると、海からすぐの高台の黒々とした神域の森の懐に真新しい御社殿が、まるで竜宮城のようにライトを浴びて浮かび上がっていました。
急いで御社殿の光を目指して暗い石段を上っていくと、真新しい白木の社殿が金色に輝いています。 神様の御遷座を見守ろうと集まられた方々と、それをさらに見守るような木々のシルエットに囲まれた神域は、しんと張り詰めていながら和やかな静けさに満ちていました。
神様の御遷行が始まった時、全ての明かりが消され、深い群青色の夜空に天の川が浮かび上がりました。星々も見守っていました。音が聞こえてくるような満天に星々の輝く夜空の下、人々も森の木々も息を呑んで見守る中、白い幕に囲まれ、提灯の明かりと氏子の皆さんの同行のもと、一歩、一歩と神様は新しい御社殿に移られました。
それはまるで、夜空に大きく浮かび上がった天の川の流れに沿って、大地までもが一体になったその際を進んでいるようにも見えたのです。
ご遷座の後、「荒神舞」が舞われた時は本当に驚きました。「デン!」と二つの太鼓が鳴ったとたん、眩しく黄金色に輝く真新しいご社殿の奥から神楽師の姿で神様が降りてこられて、神様自らが嬉しそうに、光を振りまきながら舞い始めたのです。それまで、真新しい御社殿から謹んで離れて見ていた人々がみんなそばに引き寄せられて、舞に見とれました。
その舞が、今まで見たことがないくらいセクシーで愛らしくて。両袖をぱっと翻すたびにキラキラと星が散って空を舞うようで、面からも光の笑みと星が溢れるようで。
袖も、まるで布ではないかのようにしなやかで。目も心も奪われ、その場にいるのも、夢のようでした。
それはもう、私もとても嬉しくて、おめでとう、本当によかったね。という気持ちでいっぱいでした。
ご遷座祭の翌日から、新しい御社殿が完成したことを神様にご報告しお祝いする「竣工奉祝祭」が二つの週末をかけて三日間にわたって執り行われ、「雄勝法印神楽」の廃絶していない演目、24番全てが奉納されました。
葉山神社の千葉宮司さんの知りうる限り過去に例のない数の神楽の奉納は、新御社殿の竣工を祝うばかりでなく、神楽師の皆さんの神楽完全復興の決意の心を一つにした、さらなる再生を願う祈りも込められ、雄勝の皆さんは心待ちにしておられたことと思います。
ご神事が始まる頃には、震災後住み慣れた雄勝から離れて暮らしている皆さんが、神楽を見に集まっておられました。
知人、友人と再会され、お互いの安否を確かめ合われている姿。遠方から駆けつけた故郷と神楽を愛する漁師さん。
神楽舞台に上がって一差し舞って場を沸かす氏子のおじさま。久しぶりの同郷の友と再会の挨拶の間にも神楽師の新人の発掘を忘れない神楽好きの雄勝人。
お住まいのあった浜が津波で壊滅的被害を受けられ、震災後雄勝から離れて仙台に住まわれている奥様が声をかけてくださいました。
雄勝が大好き。住み慣れた浜に戻ってきたいけれど、もう離れた場所に家を持ってしまわれた。神楽が大好きだから、お祭りの時に戻ってこられる。神様が大好きだから、移り住んだところも神社の傍なの…。いろいろお話ししてくださいました。
みんな雄勝が大好き。神楽が大好き。大好きな故郷や仲間、神楽のことを思いながら、みんな一生懸命暮らされている。
そんな皆さんを前に、時に見る人を巻き込んで、いっしょに笑い、次々と奉納される、復活した神楽の演目たち。そこには見つめる人々の、たくさんの笑顔の光がありました。
ご社殿が再建され、復興された葉山神社、同時に、完全復興を果たされた「雄勝法印神楽」。
雄勝の地、それはまだまだ復興には遠い状態です。それでも今年は地区外の仮設住宅に住まれていた方々が少しずつ雄勝に戻り始められたと伺いました。
新しいお家を建てて雄勝に戻る計画も伺いました。
山を切り開き高台に宅地を造成しているところもあります。
町の復活の兆しを感じる2015年の年の瀬の大切な節目に、ちょうど間に合うように、OGDOADも「雄勝法印神楽と東日本の鼓動」のページをグランドオープンすることができました。
神楽に関して、雄勝に関して、いままで、時折々にUPし、お知らせしてきた復興への歩みの様子。おまつりの様子。コメント。写真たち。全てを格納し、いつでも見ることができるようにしました。まだご報告が済んでいないイベントや訪れましたおまつりの様子も、順次ご紹介してまいります。
もちろん、これからの雄勝もです。
シンポジウム「シャーマニズムの未来」以来「雄勝法印神楽」と雄勝の復興に心を寄せてくださっていた読者の皆様も、神楽の復興に一役買った「雄勝法印神楽支援金活動の終了」の項、保存会の神楽師様から寄稿いただいた「葉山神社ご還座のご報告」にもどうぞお目をお通しください。
そして、岡野が訪れることができた、震災後初めて雄勝町内の浜で、雄勝町や地区の復興の祈念を込めて行われた春祭りや、奉納された神楽の写真が見たい時、写っているお友達が見たい時、神楽ファンの皆様も、愛嬌ある面を見てほっこりしたい方も、どうぞいつでもお越しください。
2016年は雷光や鳴神、神様の意味を持つ申の年。多くの喜ばしいお知らせをこの場にてご紹介できますことを。
どうぞ皆さま、お心お体、ともにお健やかでありますよう。
2015年12月30日
岡野玲子