震災後、東北地方太平洋沿岸部は復興のための工事が進み、南三陸町のほうでは、かつてそこに町があり人々が生活していたことも、津波が来たことさえも、その痕跡が全くわからなくなってしまうほど、新しい道路と堤防だけへと、変わってしまったところもあります。
できたばかりだからかもしれませんが、それは一見、とても綺麗に見えるのだけれど、生活感が全くありません。
今まで、美しい海を見ながら、石巻や、雄勝に来たことを実感して走っていた道路に9メートルの防波堤が立ち始め、海と切り離されてしまう感覚。海で漁や養殖を営む漁師さんのお家や里に祀られた神様と、海が切り離されてしまう感覚。…海の様子を見て、そこからいろいろな情報を無意識に受け取っていたであろう土地の方々にとって、それはどうなのかなあ、つらくないのかなあ、と。各地から復興の手助けに入った方々との交流で、人と人との絆や関係が広がった反面、変わりつつある町の姿に、外部から訪れる私たちでも時々ふと心配になってはしまいます。
嵩上げして道路を高いところに通した南三陸町。高い防波堤が立ち始めた雄勝町。地域によって様々です。
雄勝滞在最後の日は、工事が進み、変わりつつある北上川周辺や雄勝を惜しんで、各地の浜を回り、神楽の本拠、葉山神社にお参りして帰途につきました。
新しいテトラポッドが積み上げられた北上川の河口付近。南三陸町側から。
北上川の両岸にあった葦原はずいぶん減ってしまいました。
雄勝町上雄勝の新山神社。2012年に小さいながらもお社が再建され、お祭りが行われ、伊達の黒船太鼓や雄勝法印神楽が奉納されていました。2014年までは、秋祭りが行われていました。氏子さんたちはお祭りをしたいと願われているそうですので、実現するといいですね。
◎こちらは2012年11月、岡野が新山神社のお祭りを訪問したときのスナップ写真とコメントです(抜粋)
元石巻市役所雄勝支部があった伊勢畑地区付近では、今のところは雄勝中央坊集団地と名付けられた、盛り土された高台に新しい住宅が建ち始めています。
綺麗なお宅が立ち始めました。
雄勝中央坊集団地の高台から見下ろした雄勝湾と建設中の防波堤。伊勢畑、大浜方面
旧雄勝町方面。いずれ道路全体も嵩上げされるそうなので、実質的に防波堤の高さは道路からは4メートル。それでも、道路から海は見えません。この辺りが新しい雄勝の町のメインストリートになるのでしょうか。どんな町になるのでしょう。皆さんが暮らしやすくなると本当にいいですね。
まだ防波堤のできていない海岸線の道路から雄勝湾を望む。先は太平洋。
左の海岸沿い先端に見えるのは建設中の防波堤。あれがぐるっと湾を廻るのだと思います。
これから防波堤が立つ基礎が見える湾岸
その変化の中でも、石巻市街や南三陸町からの雄勝までの道すがら、流されてしまったり崩れてしまった橋がかけ直され、浸水していた土地の御宅が新しく建て直され、輝いている様を拝見したり、高台に様々凝らされた住宅が建ち出し、新しい施設や学校が立ってゆく様子。あ、自然と新しく築かれた堤防の間に目に見えない和解が起こったな…と感じたり、ひっそりしていた町に活気が戻り、植物たちまで明るく輝いている様を発見するのは、目覚ましく素晴らしい光景です。
出来上がっていったとき、何か思いがけない新しい可能性が発動するのかもしれません。
こちらは雄勝町大浜に新しく建てられた石巻市雄勝小中学校です。高台の海を望むロケーションでとても素敵な学校が立ちました。もう学生さんたちは通っています。
6月24日にこちらの学校の3階多目的ホールで、ヴィジュアルフォークロアさんが新たに編集された雄勝法印神楽の映画『海の産屋』が上映されます。 詳しくは、こちらの◎「映画『海の産屋』のご紹介と雄勝上映会」記事をご覧ください。1月7日、東京東中野での上映会後に催された手塚眞&岡野玲子トーク会の記事もご紹介しています。
そして、もう一つインフォメーションです。雄勝町には「雄勝法印神楽」の他にも、「雄勝町胴ばやし獅子舞味噌作愛好連」さんや、「伊達の黒船太鼓保存会」さんという創作和太鼓の演奏団体があります。
神楽、獅子舞、伊達の黒船太鼓と、雄勝っ子のみなさんが愛する芸能を共演させたイベント「鼓舞」や、新山神社の御祭礼で拝見した時、あまりにパワフルで美しい黒船太鼓の演奏に、私はすっかり心を奪われて見ていました。
和太鼓の演奏は、観客が全身に浴びる音はもちろん、奏者の姿も目を奪われるものがありますが、雄勝の伊達の黒船太鼓の演奏では、奏者の女の子達の身体が演奏のクライマックスで宙にジャンプしてしまうんです!
すっかり心を奪われて聞き入っているところに、力強い太鼓の演奏のピークとジャンプの瞬間の彼女達の熱いハートもドカンと浴びてしまう!
その威力は、言葉に表せないくらい。聞き手を力づけてくれるんです。
ちょっと動画をご紹介しますね。 雄勝町のメインストリート現在の「おがつ店こ屋街」の前での演奏の様子です。
伊達の黒船太鼓保存会の公式ブログには今年のこれからのイベントが続々紹介されていますので、機会がありましたら、どうぞ、伊達の黒船太鼓のパワフルな姿、演奏も、体感してください!
雄勝…。
雄勝町の皆さんは滅多に口に出したり表に出したりなさらないけれど…。
多くの尊い魂の帰天と、多くの失われた大切な思い出や、家族や生家や故郷への切なる思い、
それらを大切に胸に、そして皆で助け合って、息を合わせて、少しずつ、進んで行ける…。
そんなところにいつも心で寄り添わさせていただけたらたいいな…。
みんなの少し後ろでにこにこしている…そのポジションで雄勝の復興をいつも応援しています。
ますます愛おしく感じる今年の雄勝訪問でした。
2018年6月14日
岡野玲子