対談:橋本一子×岡野玲子

橋本一子さんの新アルバム
『Phantasmagoria ファンタスマゴリア〜幻覚者たち〜』(2000年9月27日リリース)には
OKANOの名前がエグゼクティブ・プロデューサとしてクレジットされています。

橋本一子さんの作品は,従来よりひたむきな音への探求心と集中力に長け
独自の透徹したリリシズムが窺える,たいへん力のあるものでしたが
機会を得て今回の新アルバムは,さらに力強いものに仕上がっています。
このアルバムをテーマに,当サイトでは橋本氏とOKANOの対談を企画しました。
まだ彼女の世界を聴く機会がなかった方も,ぜひ一度今回の作品を耳にしてみてください。


----エリクソン,ディック,バラード,ル・クレジオ,そしてボルヘス。今回の作品は知る人ぞ知る五人のSF作家の作品にインスパイアされて創られたイメージをまとめられたとか。

Steve Erickson
(1950〜)
アメリカの作家。作品に『ルビコン・ビーチ』『Xのアーチ』『黒い時計の旅』『彷徨う日々』『リープファイヤー』など

Philip.K.Dick
(1958〜1982)
アメリカの作家。作品に『流れよ我が涙と警官は言った』『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』『ヴァリス』『聖なる進入』など

J.G.Ballard
(1930〜)
イギリスの作家。作品に『結晶世界』『沈んだ世界』『クラッシュ』『コンクリートの島』『太陽の帝国』など

J.M.G.Le.Clezio
(1940〜)
フランスの作家。作品に『調書』『発熱』『向う側への旅』『海を見たことのなかった少年』『砂漠』など

Jorge Luis Borges
(1899〜1986)アルゼンチンの作家。作品に『ブエノスアイレスの熱狂』『伝奇集』『不死の人』『エル・アレフ』『砂の本』

ICHIKO

インスパイアっていう言葉でくくると少しニュアンスが違いますね。
今,自分が感じているイメージにあたってくれている人たちを選んだという感じです。まず,とにかく音はあるんだけど,それをどういう形でアピールしていくのか…っていうところで結構借りちゃった的なところがある。

OKANO

一子さんはもう,自分の中に持っていたもんね。

ICHIKO

ん。自分の中にいまあるもの,それを,何かと反映させたものにしようとしたという事。だから,全部切り離して創っても,別に全然良かったんだけれども。
でも,皆,大事な人たちだから。だから融合,みたいな形ですよね。

----これで来たか!って思わず快哉をあげてしまうような作家のラインナップですね。
OKANO

私は全部の作品を読んでいる訳ではないんですが,バラードの作『クラッシュ』をクロネンバーグ監督の映画で見たんだけど,クロネンバーグの中では,最高に洗練されていていいですね。
作中の音楽も妖しくて,何かね,あれを見たあとあの音楽を聴きながら,車を運転しちゃいけないっていう…。

ICHIKO

ある,あるよね(笑)

OKANO

それで例えば真葛ちゃんと菅公のシーンとか,妖しいシーンは必ず『クラッシュ』っていう。

ICHIKO

わかるわかる。
エリクソンもいいですよ。

OKANO

『Xのアーチ』は読んでみたいな。

ICHIKO

いいですよ。作品の中で作家が言いたい主題というのは,全体的に結構重い感じがするんだけど,それはこっちにおいておいて,極めて映像的なんですよ。いや,映像的というよりもう,抜群に訳わかんないやっていう感じかな。エリクソンの頭の中,好きだなぁ。この中に好きな作家さんいますか?

----全部を知っている訳ではないですが,若気の至りでボルヘスにはまった事があります。ジャケットの見開きに掲載されている鳥の瞳が,ボルヘスの詩に出てくるレンズのようで嬉しかったです。
ICHIKO

このジャケット,素晴らしい。

OKANO

眺めながらアルバムを聴いていると,ずっと見つめ続けてしまいますね。ジャケットを開いて,この,幻視者の世界が開いているという感じが素晴らしい。こう,窓を開いてみてそこが見えている感じ。

----とりわけ,ジャケットに用いられているボスの絵画『悦楽の園』,この青がすばらしいですね。
 

Hieronymus Bosh

 

悦楽の園◎

 
ICHIKO

このジャケットの青って,実は現在に残っている本物の絵画は,この色じゃないんですよ。
これはデザイナーの祖父江さんが,ボスの描いた時のほんのとうの色っていうのをご自分で想像して創ってくれた。ジャケット表や裏側に使っているビジュアルも,これなんか絵のほんのちっちゃい部分なんですが,今は変色で今殆どよく判別できなくなっているの。

OKANO

それも大きな絵の,ほんの一部分ですよね。凄い,よくみつけたなぁ〜って。傑作だよね。

ICHIKO

本当に傑作だよね。祖父江さん素晴らしいアーティスト。
最初祖父江さんからボスの絵を使うって聞いたとき,「えっ?ボス?」って…ボスの絵って暗いというイメージがあったから。
でも祖父江さん「大丈夫ですよ〜。と〜っても,うつくしいですから。」っておっしゃってた。出来上がってみるとほんっとうに美しい。
そのあと電話でお礼を言ったら,「でしょ〜?すてきでしょ〜」って(笑)…祖父江さんサイコーです! このクオリティを知ってしまうとこれからのアルバムジャケット,どうしようかと思いますね。(笑)


< page.1 >
next >>