陰陽師巻九の出版,music for 陰陽師のリリース,サイン会…。
2000年前半のできごとのインタビューです。(2000年6月12日掲載)

   
     
     
OKANOインタビュー(2000年04月採録)
■岡野作品でのアシスタント泣かせ『必殺トーン重ね貼り』は聞いたことあります。(笑)  
 


まさに重ね貼りですよね。いかにその元の姿を自由な大きさに表現するか,それが決めた大きさじゃなくって。その手段と同じだなんて思いましたね。
漫画の作業というのは,空気も物質であるという考え方で,繊細にトーンを重ねて二次元の画面に奥ゆきを感じさせるために水蒸気の靄(もや)を出したりするようなことをいっぱいやっているんですけれども,そういった作業の時の『伝えたい理想』というのが,まあアシスタントの人は何度も慣れているし,気心知れているんですぐ通るんです。しかし音楽をやっている人たちは,洋楽の奥ゆきの考え方には充分慣れているんけど雅楽のそういう大事な処とか知らない。

だから,例えば笛を吹く音の,笛の音だけが大事なんじゃなくって,息を吸い込む音を強調するために,吸い込む声にリバーブをかけて,笛の音からはエコーをとってくれとか,そういう風な注文になったんですけれども,なかなかそれを短時間で通すのが難しい。で,全部それをやろうとすると,どうしても注文の細かな暴君にならざるを得なくって…。

■しかし飛鳥井のその状態に身を浸しているのは岡野さんだけだから廻りのスタッフは,結局その環境のアイテムを何とか想像でかきあつめないといけないでしょう。  
 


ええ,普通の音楽家と違うって言われましたよ。通常,「例えばこんな感じ?」って要求を出すと,スタッフの方が「じゃあ,こんなのどう,こんなのどう」って出して「う〜んまあこんな感じでいこうか」って簡単に決まるらしい。でも,今回のようにもの凄くはっきりしていて譲れないものを目指す作業ってあまりないそうです。
だから,たとえば『陵王乱序』に雷鳴を入れたい,と注文する。するとマニュピレータの浦田さんが素っ晴らしい雷鳴を入れてくれて,私は思わずあまりのかっこよさに大笑いしながら聴くんですよ。浦田さんが「いい?」って聞くので「うん,すごくいいっ!でも,この雷の後ろ,雨の音入っているね,この曲に起こるのは晴天の霹靂だから雨の音全部消してねっ」雨の音全部消すの,大変なんですけれどゲタゲタ笑いながら頼んじゃうんですよ。ホントに暴君です。(笑)

 

■そういえば別の曲で『飴色の声』という指示もありましたね。  
 


飴色の玉を磨くような声(笑)。そう,水晶の珠を磨いているようなね。でもね,ミキサーの吉岡さんは「……解りました…。」ってやってくれる。凄く勘のいい方で,一生懸命やってくださって,ほんとうにその『譲れない大切なもの』が伝わるのが嬉しかったです。
逆に,一曲まるまる預けてしまって,マニュピレータの浦田さんのほうで好きなように曲全体を編集していただいて,思いがけない大変に面白い曲になったのは『青海波』ですよね。

『青海波』というのは『源氏物語』の中で光源氏と頭中将が舞うくだりのある雅で華やかで曲そのものもとても複雑に構成されたものなのです。詠は入れたいし,CDの収録にも制限があるので,思いきりアレンジしてしまうのが良いのではないかと,おまかせしてしまいました。
そしたら,CD全体の構成時に考えもしていなかった菅公の姿が出てきてしまったんですね。しかも尊厳のある霊として…。
とても凝ったアレンジがほどこされていて,曲の中にあるノイズはすべて録音時に録音されたものなんです。キシミ音も大太鼓のバチがどこかにあたって出たノイズをデフォルメしてますし,コーラスのような声もすべて詠をうたった芝祐靖先生の声なんです。

雅楽の可能性の一つをひらいた曲になったと思いますよ。素晴らしい。

 

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